アインシュタインからの手紙
アインシュタイン。
物理や科学に特に詳しくない人でも、その名前は一度は聞いたことがあるでしょう。僕もかなり思い入れのあった人物で、彼についていろんな本を読んだり、自分の漫画(「CLOCK CLOCK」)に重要な役柄で出しちゃったりしました。
↓こんな感じで。(テーマに係わるくらいの位置付けでした)
アルバート・アインシュタイン。相対性理論を発表し、ニュートン以来の物理学の土台を根底から書き換えた、世界を変えた大科学者です。古典物理学最後の天才であり、現代物理学を生み出した最初の一人。アインシュタインの偉業によって、人類のこの世界への認識は根本的に変わりました。
「エネルギーと質量は同じ物である(等価原理)」や、「光の速度は常に一定(光速度不変の法則)」、「空間は湾曲している」、「光速に近づくにつれて、また、大質量の物体に近づくにつれて、時間は遅れていく」、など、SFなどではお馴染みの宇宙の真の姿は、この天才が解き明かしたのです。 「ワープ」や「ワームホール」、「ブラックホール」、「タイムトラベル」、「ビッグバン」「四次元」なども、アインシュタインの「特殊相対性理論」「一般相対性理論」などから生み出されたり、現実味を帯びてきた概念。「量子力学」と言う不思議な理論も、アインシュタインの研究の成果から生まれた理論体系です。(本人は「神はサイコロを振らない」と言って、生涯嫌っていましたが。) 今僕たちが使っているパソコンやなんかも、この量子力学がなければ存在しませんでした。現代の物理体系や科学技術全般は全て、「相対性理論」と「量子力学」を二本の柱に成り立っているのです。
また、相対性理論が生み出した不可思議な新しい世界観は、当時世界に熱狂的に受け入れられたらしく、ヨーロッパに「四次元ブーム」なる物を生み出しました。ピカソを始めとする「キュビスム」というあの奇妙な画風が生まれた土壌も、この「四次元」という新しい世界認識が根底にあったからこそと聞きます。
時は20世紀初頭。アインシュタインはこのように、科学界・物理学界のみならず、一般社会においても人気者になっていきました。
さて、アインシュタインの式で有名なのが、
E=mc²
です。E=エネルギー、m=質量、c=光速度を表します。
これも、多くの人が1度は目にしたことがあるでしょう。でも、この式はいったい何を表しているんでしょうか。
「c」の光速度は、秒速30万キロ(300000㎞/s)です。これは、宇宙で一番速い速度です。この光の速度より速いスピードは、この世には存在しません。「c」とは、それほど大きな数値なわけです。で、この式では、その「c」をさらに2乗してるのです。
単純に、300000×300000だから、c²=90000000000 。
単位のことは置いといて、素人目に見ても、これがとてつもなく大きい数字と言うことがわかります。
つまりこの式は、どんな物体にでも、わずかな質量(m)に、とてつもないエネルギー(E)が含まれてることを表してる。
そして、この式から生み出されたのが、原爆であり、原子力発電所であるのです。
アインシュタイン博士自身は、第2次大戦前からの筋金入りの平和運動家でした。根っからの自由人でもあり、自身が「学校」と言うものに馴染めなかった事もあって、軍隊的なものに生理的な嫌悪感を持っていたとすら語ってます。自分の研究が軍事利用されることに抵抗のないタイプの人間では決してありません。
が、ナチスの脅威が現実化し始めた1939年8月2日、レオ・シラードの要請を受けて、アインシュタインは、ルーズベルト大統領宛の原爆の開発をうながす手紙に署名してしまいます。シラードが手紙を持ってきて依頼してから、2週間悩んだすえの事だったといいます。アインシュタインのことを同志だと思っていた原理的平和主義者たちは、このアインシュタインの変節を非難しました。
アインシュタインの業績と魅力的なキャラクターを尊敬していた世界中の彼のファンたちも、同様だったのでしょう。今日(2005.6.7)のヤフーニュースのトップに、こんな記事が紹介されていました。暴力、戦争、戦争責任に関するアインシュタインの生身の声が感じられて、なかなか興味深いです。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
アインシュタイン(1879~1955)博士が平和観や戦争責任についてつづった6通の手紙の寄贈先を、東京都中野区在住、哲学者の故・篠原正瑛(せいえい)さんの家族が探している。博士は第二次大戦中、ルーズベルト米大統領(当時)に原爆開発を促す連名の書簡を送った。「あなたは平和主義者と言うが、なぜ開発を促したのか」と批判する篠原さんの指摘をきっかけに始まった文通の手紙で、家族は「今年は戦後60年の節目。平和を考える材料にしてほしい」と話している。
(中略)
◇アインシュタイン博士からの手紙(抜粋)
1953年2月22日
……私は絶対的な平和主義者だとは言っていません。私は常に、確信的な平和主義者です。つまり、確信的な平和主義者としてでも、私の考えでは暴力が必要になる条件があるのです。
その条件というのは、私に敵がいて、その敵の目的が私や私の家族を無条件に抹殺しようとしている場合です。……したがって、私の考えではナチス・ドイツに対して暴力を用いることは正当なことであり、そうする必要がありました。
1953年6月23日
……私は日本に対する原爆使用は常に有罪だと考えていますが、この致命的な決定を阻止するためには何もできなかった。日本人が朝鮮や中国で行ったすべての行為に対して「あなた(篠原さん)に責任がある」と言われるのと同様、(私は)ほとんど何もできなかったのです。……他人やその人の行為についてはまず、十分な情報を手に入れてから、自分の意見を述べるように努力すべきでしょう。あなたは、日本で私を批判的に説明しようとしている。……
1953年7月18日
あなたが前回のお手紙で予告されていた、素晴らしい日本の木彫りの人形が届きました。素晴らしい贈り物に心から感謝します。
1954年5月25日
……奥様からの感動的なお申し出をありがとうございます。しかし、私はどのみち要求の多い人間でありますし、あなたの国にも必要とされるふさわしい人たちは大勢いらっしゃるでしょうから、その友情をお受けすることはできません。
1954年7月7日
……原爆開発で唯一の私の慰めとなることは、今回のおぞましい効果が継続して認識され、国家を超えた安全保障の構築が早まっていることです。ただ、国粋主義的なばかげた動きは相変わらずあるようです。
(手紙はすべてドイツ語。藤生竹志訳す)
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
アインシュタインは、ドイツ生まれのユダヤ人でした。ナチスの台頭に嫌気がさし自身は草々に祖国に見切りをつけアメリカに渡ったのですが、残してきた親戚縁者が次々と強制収容所に送られるに及び、遂にあの決意に至った。手紙の端々から、その苦渋が伝わってくるようです。
アインシュタインにとって日本への原爆投下は心の傷になったようです。彼は2次大戦後も平和運動家でありつづけ、また日本のことも愛してくれて来日したりもしました。しかし、この手紙を見てもわかる通り、「殺されても殺さない」、完全無抵抗主義者ではないと思います。(対して、「自分の恋人や娘がレイプされて惨殺されても自分は武器を取らない」と公言する完全非暴力主義者もいます。ここまで言い切ると、それはそれで天晴れと言う気もします。)
戦後60年、戦争を知らない僕らにもわかるほど、世界がいろいろきな臭くなってきました。そのせいか、以前アインシュタインの本を読んだ時よりも、この辺の彼の気持ちがより興味深く感じるようになりました。思わず大人気なく感情的な返事を送ってしまう稚気も含めて、やはりこの人は面白い。僕の漫画でも当時いろいろこの辺に絡めた展開を考えてたんですが、その時の気分をちょっと思い出したので、ここに記しておきます。
※しまった、追記。
アインシュタインって言うなら、戦後60周年なんて言うより
「奇跡の年」100周年って言うべきだった。
興味ある人は、「アインシュタイン 奇跡の年」でグーグル検索してみましょう。
ちなみに「奇跡の年」1905年は、モーリス=ルブラン作・アルセーヌ=ルパンシリーズの傑作「奇巌城」が発表された年でもあります。
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この記事へのコメントは終了しました。
コメント
こんばんは。はじめまして。
フツーに生きてるGAYの日常のトラバから飛んで参りました。アインシュタインの手紙とても考えさせられます。
森田さんは有名な漫画家さんなのですね!
るっかは漫画大好き人間です。CLOCK CLOCKは読んだことがないのですが、絶対読んでみようって思いました!
マイブログリストに登録させていただいてもよろしいでしょうか?(リンク)
投稿: るっか | 2005年6月 7日 (火) 20時50分
TB返しありがとうございました。
アインシュタインのことは詳しくないのですが
今回のニュースで興味を持ちました。
これから知っていこうと思っています。
投稿: akaboshi07 | 2005年6月 7日 (火) 20時57分
るっかさん>
コメントありがとうございます。
ごめんなさい。全然有名じゃないです・・・○| ̄|__
それどころか目下ものすごい勢いで停滞中。
それで宜しければ(笑)、もちろん登録は大歓迎です。
ブログ見ました。ぷりっきゅあ ぷりっきゅあ。
娘2さんに宜しく~(笑)。
akaboshi07さん>
こちらこそ、TBありがとうございます。
アインシュタインはその業績にしてもキャラクターにしても人生にしても常人離れした人なんで、調べたら面白いと思いますよー。
ちなみに今回のような非難の手紙とのやり取りはこの日本人の方との間以外にも残っているんで、個人的にはそれほど特別な物が発見されたわけでもないんじゃないかと思ってます。(同じような、良心的兵役拒否者からの非難の手紙とのやりとりなどが残っている。) あ、でも、原爆を落とされた側の、日本人とのやり取り、と言う意味では珍しいのかな?
おそらく世界中からそういった手紙があり、それに対してこのように、一つ一つ反論していったのであろうと思うと、ちょっと頭が下がります・・・
投稿: TAK@森田崇 | 2005年6月 7日 (火) 21時47分
TBありがとうございます
ご自身の漫画に登場させていたんですね。
漫画をみたことはありませんが、今度みかけたらみてみたいともおもいます。
投稿: Yas | 2005年6月 7日 (火) 22時09分
そうですか、他の国の方々ともやりとりがあったんですか。
そういう個人レベルでのやりとりをちゃんとしていたというのが、人柄を感じさせますね。
なんだか知って行くと様々な幅広い側面を持ってそうな人物ですね。
人間、複雑な顔を持っているほうが・・・面白いですよね(笑)。
投稿: akaboshi07 | 2005年6月 7日 (火) 22時38分
Yesさん>
コメントありがとうございます。
>漫画に登場
そういったわけで、なかなかに思い入れのある人物なのです。
akaboshi07さん>
>人間、複雑な顔を持っているほうが・・・面白いですよね(笑)。
同感です(笑)。
幅は広いですよー。
晩年の、量子力学の解釈をめぐったニールス・ボーアたち量子力学者との論争なんかも、なかなか面白いです。(アインシュタイン/ボーア論争)
投稿: TAK@森田崇 | 2005年6月 8日 (水) 09時37分
こんばんは!
昨日はトラックバックとコメントありがとうございました!
トラックバックした後、真っ白になってしまって
その後開けなかったので今コメントさせていただいてます。
解説、とってもわかりやすくて嬉しいです。
こういう手紙のやりとりはまだあるんですね。
天才と呼ばれるに人はこういう感情的な言動が意外と多かったりしますよね。
彼は研究をする時も、その署名をする時もずっと孤独だったんでしょうね。
そうするしかなかったという気持ちを聞くとせつないです。
常に一人で戦っていたのでしょう。尊敬します。
投稿: aoi | 2005年6月 8日 (水) 22時41分
こちらこそ、TB&コメントありがとうございます。
手紙のやりとり>
僕の手元で確認できる物では、創元社から出ている
『「知の再発見」双書59・アインシュタインの世界』の巻末の資料編、
「天才の光と影」6、―兵役拒否をめぐって―
に載っております。
http://www.sogensha.co.jp/mybooks/ISBN4-422-21119-6.htm
シリーズ自体は、大きな本屋だったら大抵揃えてあるシリーズなんで
見かけたら読んでみてくださいね。
投稿: TAK@森田崇 | 2005年6月10日 (金) 14時00分
ブログ出来てたんですね。挨拶。
ClockClock新たに2冊買いました。布教します。
なんかネタも自分の稚拙な知識からではこれ以上
言うことが無いので一言。
リーゼルの行方が本当に気になります。
おそらくありえないでしょうが、実際に、
ClockClockの設定通りだったら感動します。
関係ないですが世界物理年の光のリレー、参加しましたよー。
今年中にもっと何かやらないと後悔しそうです。
投稿: tblien(milfeuという名前でBBSに投稿してました) | 2005年6月14日 (火) 03時39分
milfeuさん改めtblienさん>
お久しぶりです、コメントありがとうございます!
>ClockClock新たに2冊買いました。布教します。
うわっと、申し訳ないほどありがたいです。うわああ。
リーゼルの行方>
そうですねえ。NHKの「アインシュタイン・ロマン」に載ってた幼い頃のリーゼルの寂しそうな写真が印象的でした。レベッカとして決着を付けてあげられなかったのも心残りです。
>関係ないですが世界物理年の光のリレー、参加しましたよー。
>今年中にもっと何かやらないと後悔しそうです。
おっと、すごい!!
僕も何かやってみようかな。
ちなみにアルセーヌ・ルパンの方も今年登場100周年で、
ポプラ社の児童向けが文庫化したり、映画が公開されたり、
なんかいろいろありそうです。
投稿: TAK@森田崇 | 2005年6月18日 (土) 16時14分