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アルセーヌ・ルパンシリーズ全容 vol.1

このブログを立ち上げた時から「アルセーヌ・ルパン」カテゴリーはずっと作るつもりだったんだけど、書きたいことがありすぎてどこから手をつけていいか分らなかった。ハヤカワ「奇岩城」の発売はいい機会でした。前回の記事でなんだかエンジンがかかったぞ。

←のルパンカテゴリーがちょっとしたルパン研究サイトになるように、今後ともちょくちょく書いていきたいと思います。

ってわけでまず、今回はざっと僕なりにルパンシリーズを俯瞰して、各作品の簡単な紹介をしてみます。興味持ってくれた人が、「どれから読めばいいの? どれが面白いの?」と思ったときにちょっとした参考になれば嬉しいです。

アルセーヌ・ルパンシリーズは、(まとめ方にもよりますが)長編・短編集あわせて全部で約21冊分になります。作風はなかなかバリエーション豊かで、ミステリ・推理小説として完成度の高いもの(主に短編)や、暗号解読や中世の宝物探しを題材にした冒険伝奇もの、また歴史戦争(第一次世界大戦)を背景にした作品群、また恋愛小説としての側面が強いもの、など様々です。

基本的に1冊1冊で話は完結していますが、前期の流れには大河性もなくはないし、また、たまに後の作品に前の作品のネタバレが入っていたりするので、できれば発表順に読んでいくのが理想だと思います。まあこだわらないで興味あるのから読み始めてもいいと思いますけどね。

てなわけで、ざっと作品の発表順に俯瞰してみます。

1、怪盗紳士ルパン ★★★★☆
第1短編集。9つの短編から成っている。第1話はいきなり「ルパン逮捕される」。これって知らない人には案外トリビアではないだろうか。以下、獄中のアルセーヌ・ルパン」「ルパンの脱獄」…と話は続く。ルパンの幼少の頃の話(「女王の首飾り」)やルパンの伝記作家「わたし」との出会い(「ハートの7」)などバリエーション豊かで、後のルパンもののの面白さのエッセンスがすでにこの短編集で詰まってると言っていい。第9話「遅かりしシャーロック・ホームズ」で初めてライバル・ホームズと出会う。(原文では「ホームズ」ではなく「ショルメス」というパロディーキャラ。邦訳ではホームズにされちゃってる) ホームズと軽いつばぜり合いを行い、更なる対決を予感させて、引き、で1巻終了。少年漫画としても完璧だ!

2、ルパン対ホームズ ★★★☆
「金髪の婦人」「ユダヤのランプ」と言う、2本の中篇を収録。1巻のラストを受けて、シャーロック・ホームズ(エルロック・ショルメス)との本格的な対決を描く。北駅のカフェでのホームズとルパンの邂逅はめっちゃかっちょいい。それと、この作品はかなりユーモアが効いてる。からかわれる側のホームズファンには我慢ならないかもしれないが、一応ホントは「ショルメス」なので・・・(笑)。

3、ルパンの冒険 ★★★
舞台の小説化。当時のメディアミックス? ルパンのオーソドックスな手口で、第1短編集を読んでる身には意外性があまりなく、舞台用の脚本を無理やり1冊分に引き伸ばした感があり少々たるい。が、この作品でルパンの乳母が初登場するのではずせない。あとヒロインが健気でかわいいと思った。心理ドタバタ劇っぽいところが三谷幸喜とかの舞台っぽい? 舞台で見たら面白いのかも。

4、奇岩城 ★★★★★
初の長編。文句ナシに名作だと思います。すでに名を成した巨人・アルセーヌ・ルパン対、高校3年生の天才少年探偵イジドール・ボートルレ。頭はいいけどあくまでまだ「少年」のボートルレが、時に打ちのめされて涙にくれながらも必死でルパンにくらいついていくところがもう燃える!鉄仮面やマリー・アントワネットもからむ歴史上の大秘密と暗号解読がゾクゾクする。そして対決を重ねてきたホームズ(ショルメス)との決着。あのラストがまた。いつかフランス行ってエトルタのエギーユ・クルーズをこの目で見てみたいねえ。

5、813 ★★★★★
長編2分冊の前編。これがまた奇岩城と1、2を争う傑作。奇岩城の後、4年間沈黙を守ってきたルパンの復活。「813」「APO ON」の謎をめぐるルパン、殺人鬼L.M、国家警察部ルノルマン部長の3つ巴の戦いは見ごたえたっぷりだが、何より最後の大どんでん返しがビックリ。初読の時は興奮した。あと敵の一人、アルテンハイム男爵が案外男気があって好きなんすけど。

6、続813 ★★★★★
長編2分冊の後編。813の続きでこれまた大傑作。前編のラストを受けて、「世界中が爆笑した!」から始まる。その前編よりさらにスケールアップして、ドイツ皇帝ウィルヘルム2世が登場したりする。また、背景に第一次世界大戦勃発の予兆がちらほら見られる緊張感がたまらん。また前編・後編通じて言えることだが、この作品は巨大な野望に身を焦がすルパンの悪魔的情熱がいい。その妄執の果ての、最後のジュヌビエーブとのシーンは泣けるよ・・・。どんでん返しは、前編のラスト以上のものが用意されています。これほど面白い話はそうは知らない。時系列的には、この話の後、世界は第1次世界大戦に突入していきます。

7、水晶の栓 ★★★★
長編これも傑作と誉れ高い。でも個人的には「813」や「奇岩城」よりは落ちるかも。時系列としては「813」「奇岩城」から少し戻って平和な時代(ベル・エポックと呼ばれる時代)が舞台となっています。当時起こったフランス政界の汚職事件を絡めた、悪徳代議士ドーブレックとルパンの対決。ルパンは部下を救うために戦うのだが、親分を信じる部下の描写とそれに答えきれずに追い詰められていくルパンの焦燥が感動的。

8、ルパンの告白 ★★★★☆
第2短編集。9編の短編が収録されています。これも時代としては「ベル・エポック」期の話。ルパンの短編はミステリとしてよく出来た物が多くて、どれもはずれはないと思います。この短編集では、「太陽の戯れ」「影の合図」あたりが暗号小説の佳作としてよくミステリ・アンソロジーで紹介されている。僕は「赤い絹のスカーフ」がかなり好き。ネームだけですが、昔自分で漫画にもしてみました(笑)。「結婚指輪」「ルパンの結婚」も案外好きだ。こういう人情話、心理劇のような要素があるのが、元心理小説家であったルブランが、ややもするとただのパズル小説になりかねない他の推理小説作家と違うところの一つだと思ってます。

9、オルヌカン城の謎 ★
長編。時系列は「813」後に戻り、いよいよ第1次世界大戦の勃発です。と言ってもこの作品にはルパンは1,2ページしか出てこず、主人公に助言を与えるのみにとどまります。なもので1度しか読んでない。印象に残ってないからあまり面白くなかったと思う・・・

10、金三角 ★★★★☆
長編。バリバリに第1次世界大戦中の話です。傷痍軍人パトリス・ベルバル大尉が前半の主人公で、ルパンは後半、救世主として現れます。それが気持ちいい。初読の時はどんでん返しにもあっと驚いたし、個人的にはかなり好きな作品です。ルパンは「813」の後自分を死んだ事にし、それ以降「虎の牙」まで、スペイン貴族「ドン・ルイス・ペレンナ」として活躍します。これがその第1作。

11、三十棺桶島 ★★★★
長編。これも第1次世界大戦中の話です。ある女性がブルターニュ地方の三十の棺桶の島の伝説に巻き込まれる物語で、これも後半、救世主としてドン・ルイス・ペレンナことアルセーヌ・ルパンが颯爽と現れて彼女を救います。ドルメンやドルイドなど、ケルトの伝説や土俗をふんだんに生かしたおどろおどろしい雰囲気は他作品にはない。ホント、バリエーション豊かだと思う…。横溝正史はこの作品の影響を受けているらしいです。

12、虎の牙 ★★★★★
大長編傑作だと思います。長いんで上下巻に分けられる場合もある。第1次世界大戦直後の話です。この作品でドン・ルイス・ペレンナがルパンだと世間にばれます。遺産相続をめぐった連続毒殺魔との対決で、ドン・ルイス自身も遺産相続人であることから疑いがかかっていくあたりが緊張感ある。また、部下であり警察官でもある善良なマズルー警部が、ルパンと警察との間で板ばさみになるのがかわいい。謎解きとしては中盤が山だけど、その謎は初読の時はかなりゾクゾクした。後半はアクション映画のようなんで、本格推理小説ファンの評価が低かったりもしますが、ナニ、「推理小説」というカテゴリにこだわらなければめちゃくちゃ面白いですって。あと、ドン・ルイスことアルセーヌ・ルパンの大戦中の行動の全容が明らかになります。お前は江田島平八か、ってくらい少々吹きすぎ!な感はありますが(笑)、この底抜けのスケールのでっかさが、ホームズシリーズにはないルパンシリーズの魅力だと思ってます。

第1話の「ルパン逮捕される」では、ルパンは25歳の若き青年。ホームズとの初対面の時、ルパン26歳、ホームズ46歳。(この二人には世代差があります。) 第1次世界大戦を経て、「虎の牙」終了時ではルパンは45歳。大冒険としては時系列的にはほとんどこれがラストエピソードと見ていいと思います。あとは時間をさかのぼった「エピソード・ワン」的なものだったり、「奇岩城」と「813」の間の4年間の空白を埋めた「サイドストーリー」的なものだったり。時系列的な意味での「虎の牙」以降も2、3の冒険はしますが、スケールの小さい、ルパンの人生としてはエピローグ程度の冒険です。このあたりになると、作品としてもいまいち・・・。

とりあえず今回はここまで。とにかく前期は傑作が多いです。後半に続く!

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コメント

アルセーヌ・ルパンシリーズの魅力がまとまってて、的を射ててすごいなと思います。1作1作うなづきながら読みました。やっぱり「虎の牙」までが最高ですよね。それ以降はなんだか気が抜けたというか、求心力に掛けると言うか…。ルパンシリーズは去年から読み始めて(子供時代に一部は読んでましたが)全部読んだのですが、読む前にこういう読書案内みたいなのが欲しいと思ってたのですけど、なかったのが残念でした。

それとなにより江田島塾長にむちゃくちゃ納得しました。少し肩の力が抜けたと言うか…時代的に難しい問題がありますから。ルパンはベンガル虎と戦ったとか捕まえに行ったとかどこまでが本気なんだ?!というのが楽しいです。

投稿: K-A | 2006年6月17日 (土) 12時21分

K-Aさん>
初めまして! コメントありがとうございます。
アルセーヌ・ルパンファン(それも原作完訳版のファン)は
知り合いの中でも少ないので、こうやって反応があると
非常に嬉しいです。レスが遅れて申し訳ありません。

>やっぱり「虎の牙」までが最高ですよね。

ホントそうですよね。ここまでの流れは、よくもまあ、と思うほど
全て傑作続きだと思います。

これ以降も、例えば「八点鐘」「バーネット探偵社」などの
連作短編系はかなりの傑作だと思うのですが、
長編はやはり前期の作品のワクワク感に比べると見劣りしちゃいますね。
去年の映画「ルパン」の下敷きとなった「カリオストロ伯爵夫人」も、
ルパンシリーズの中では「中の下」、くらいの作品だと思いますもん。

>それとなにより江田島塾長にむちゃくちゃ納得しました。

ですよね(笑)。実際、「ルパンがあと5、6人いれば、大戦はもっと楽に勝てたであろう」みたいなセリフがありましたから(笑)。まんま江田島平八(笑)。

投稿: TAK@森田 | 2006年6月20日 (火) 10時01分

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