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アルセーヌ・ルパンシリーズ全容 vol.2

時間が空いてしまいましたが、アルセーヌ・ルパンシリーズ全容紹介、第2弾です。(第1弾はこちら。) 前回に続き、僕なりにルパンシリーズを俯瞰してみたいと思います。前回は第1作「怪盗紳士ルパン」から第12作「虎の牙」までを書いてみました。今回は第13作「八点鐘」から第22作「ルパン最後の事件」までを書きたいと思います。

前回書きましたように、ルパンシリーズの、特に長編の大傑作、スケールのでかい大冒険は前期に集中していると思います。また、時系列的にほぼ順を追った大河的な流れも、1900年あたり、「ベル・エポック」と呼ばれる時代が舞台と思われる「怪盗紳士ルパン」から第1次大戦後の1919年が舞台と思われる「虎の牙」まででいったん途切れます。この後は、「奇岩城」と「813」の間の「空白の4年間」を描いたサイド・ストーリー的なもの(「八点鐘」「緑の目の令嬢」「バーネット探偵社」など)、「怪盗紳士ルパン」以前まで遡って初めての冒険を描いたエピソード1的な話(「カリオストロ伯爵夫人」)など、最盛期に比べたら少々小粒ともいえる作品になっていきます。

ただ、だからと言って全てイマイチかと言うとそういうわけでもありません。特に連作短編集である「八点鐘」「バーネット探偵社」は、これだけで別シリーズを立ち上げてもいけるんじゃないかと思うほど独特の魅力に満ちていて、前期の大傑作達と充分張り合えるほどの作品だと自信を持って言えます。(特に個人的に「バーネット探偵社」は大好き。) また、後期は恋愛要素(アバンチュール要素)が強いので、もしかしたら女性読者は後期作品のほうが好きなのかも知れません。(実際ブログなどを回ってみると、そういう傾向を感じました)

では、第13作「八点鐘」から行ってみましょうー。

13、八点鐘 ★★★★☆
連作短編集。セルジュ=レニーヌ公爵とオルタンス・ダニエル嬢のコンビが次々と冒険に身を投じ事件を解決していく、八つの短編から成っている。レニーヌ公爵の正体は、やはりアルセーヌ・ルパン。しかしこの作品では彼は一切盗みを働きません。ルパンの名前も表に出しません。人助けに徹します。銘記はされていませんが、恐らく「奇岩城」のラストで姿を消したルパンが「813」で再び世に現れるまでの「空白の4年間」に起こった、彼にとっては休暇なのでしょう(笑)。一つ一つのエピソードはミステリ短編としても評価が高くテレーズとジェルメーヌ」は密室トリックの元祖の一つだと思うし、「雪の上の足跡」のトリックは、その後の推理小説に何度もアレンジして流用されました。また、「水びん」のトリックはミステリ・アンソロジーなどによく取り上げられたりしています。それと、僕が注目するのは、元心理作家であったルブランならではの、心理劇としての側面。前述の「テレーズとジェルメーヌ」「ジャン・ルイ事件」は、パズルのためのパズルではない、人の心こそが謎を生むと言う、ルパンシリーズの裏テーマとも言える特徴が現れていてお気に入りです。

14、カリオストロ伯爵夫人 ★★★☆
長編。近年映画になった「ルパン」は、この話が下敷きになっています。時代は大幅に遡って、1894年。ルパン20歳の時の、最初の大冒険です。恋愛小説としての側面も多分にあって、20歳のルパンは若き令嬢クラリスと、妖艶な謎の美女カリオストロ伯爵夫人の間で揺れ動きます。そこが若い頃読んだ時はウザかった(クラリスが可哀想で…)とこだが、今読んだらそこが面白かった(笑)。イヤー恋愛の機微っつー奴ですな(苦笑)。ルパンはこのカリオストロとの対決を通じて成長し、その才能を開花させていくのです。ルパンシリーズの背骨となる「カリオストロ4つの謎」の存在も明らかになるし、エピローグで「怪盗紳士ルパン」の誕生を目の当たりにすることになるし、ルパンを語るのにはずせない1作。

ちなみに宮崎駿の「カリオストロの城」とは、ストーリー上の類似点はほとんどありません。タイトルとヒロインの名前だけ流用したそうです。

15、緑の目の令嬢 ★★★☆
長編。これもおそらく「空白の4年間」の話ですね。「緑の目の令嬢」オーレリーを、陰日なたからルパンが守るお話。ルパンの「女性を守る騎士」的な性格が一番現れてる作品だと思います。可憐な令嬢のピンチにきっちり現れるルパンは、男から見てもカッコイイ。ヒーローだなあ。この作品は敵キャラであるマレスカルへのルパンのからかいっぷりが面白いのと、あとなにより最後の「お宝」ですね。宮崎駿「カリオストロの城」の「ポケットには大きすぎるお宝」は、この作品からの流用です。カリ城の方で有名になりすぎちゃったんでアレだけど、凄いアイディアだと思う。

16、バーネット探偵社 ★★★★★
連作短編集。これは面白いです。パリの真ん中に「調査費無料」という人を食った看板を掲げている「バーネット探偵社」。調査費無料を謳いながら、実はその裏で、ケチな調査費なんかとは比較にならないほどの大きな報酬をくすねて行く。探偵ジム・バーネットの正体は勿論アルセーヌ・ルパン。毎回バーネットの活躍で事件は解決し、善人は開放され、悪は懲らしめられ、それ以上にバーネット(=ルパン)は大笑いしていると言う、痛快極まりない作品。相棒であり敵(?)でもあるべシュ刑事が、哀れながらもいい味出してます。伝記作家の「わたし」を別にすると、ルパンシリーズ全編通してルパンの対等の親友と言える立場のキャラは、彼だけではないでしょうか。これもおそらく「空白の4年間」を埋める作品。

17、謎の家 ★★☆
長編。長編にしてはトリックが…。ちょっと単純すぎて読めちゃったかな。1冊分引っ張るほどではない。ただし、前作「バーネット探偵社」とのリンク度合いが強く、その点は○。バーネットの相棒であったベシュ刑事が再び出てきます。この作品でルパンは海洋冒険家ジャン・デンヌリとして登場しますが、ベシュ刑事がデンヌリを「おめーバーネットだろう」と常に疑いのまなざしを向けているのが笑えます。今作においてはベシュとルパンは敵対気味。これもおそらく「空白の4年間」…と言いたい所ですが、だとすると世間にルパンの名前が噂されてしまった今作は、「813」での記述と矛盾をきたしかねないんですよね。どうなんだろう。

18、バール・イ・ヴァ荘 ★★★☆
長編。前作に引き続き、またまたベシュ刑事が出てきます。個人的に上の2作とあわせて「ベシュ3部作」と呼んでいます(笑)。今作では一転、逮捕をあきらめたのかベシュはルパンに好意的。再び「バーネット探偵社」の頃のようなコンビで事件にあたります。「バール・イ・ヴァ」とは「潮がそこまで来る」の意。錬金術、古い記憶、古代の宝…と、久々におどろおどろしい雰囲気が味わえて、後期の長編の中では結構好きな作品。ただ若干短いのと、敵の正体が微妙なんで、やはり小品の印象はぬぐえないかな。お宝のスケールはかなりのもんだと思うんですけど。

19、二つの微笑をもつ女
長編うーん、正直タイトル以上の意外性が感じられない…。読めちゃいます。それなりに分厚いのに、それに見合う意外性やワクワク感は感じなかった。これは設定的にいつの時代になるのかなあ。第1次大戦前(つまり「813」前)だとは思うんだけど。

20、特捜班ビクトール ★★★★
長編。これは結構好きです。偏屈な老刑事ビクトール・オータンと、再び活動を再開したアルセーヌ・ルパンの対決。時期的には、ようやく「虎の牙」の後。(結婚したはずのフロランス嬢はどうしたの?(笑)) 終始ルパンが不利で追い詰められていくように見えますが、最後のカタルシスは見事!「見ろ!これが真の英雄、生まれながらの親分(パトロン)だ!」と敵前でアントルシャを踊るルパンのシーンには、胸をすくような思いが味わえます。

21、カリオストロの復讐 ★★
長編。うーん、これは微妙だなあ。話的には興味深いです。ルパン50歳近く「虎の牙」「特捜班ビクトール」より後。カリオストロ伯爵夫人にさらわれた息子・ジャンが、四半世紀の時を越えて青年としてルパンの前に現れます。そして恐ろしいメッセージ。「私、カリオストロ伯爵夫人は復讐する」。ルパンシリーズの背骨、その決着とも言える話なんで興味深くないはずはないんですが、いかんせん、この作品のルパンは状況に翻弄されるだけで何一つ自分で解き明かさない。物語を引っ張っていかない。どんでん返しの立役者になるのは別のキャラ。ルパンは苦悩する立場なので「そこがまたいいんじゃん」と言えなくもないのですが、やはりカタルシスがないのは否めませんでした…。せっかくの長い因縁の決着なのになあ。

22、ルパン最後の事件 ★★
長編ルパン50歳「カリオストロの復讐」より後です。原題は「アルセーヌ・ルパンの数十億」なんですが、発見されているかぎりこれが最後のルパン作品なので、偕成社の全集などではこう訳されています。アメリカのマフィアが、ルパンがその生涯で溜め込んだ数十億フランに及ぶ財産を狙う話。話としては正直それほど面白くなかったんですが、宝を狙う立場から、狙われる立場になったのは結構面白いと思いました。そりゃそうだわなー、あれだけ稼いでたら(笑)。敵がアメリカマフィアと言うのも、時代の移り変わりを感じさせていいですねえ。ベル・エポック、ヨーロッパの時代、怪盗紳士の時代は終わった。これからはアメリカだ、マフィアだ…ところがどっこい、アルセーヌ・ルパン、未だ健在!若造には負けん!…そんなところが感じられて、ラストを飾るのになかなか味わいがあっていいと思います。ガニマールやベシュが再登場するのも嬉しいです。

以上で、ルパン作品全22作(「813」「続813」を1冊として数えると全21作)を俯瞰してみました。アルセーヌ・ルパンに興味を持った方が、「どれから読んでみよう?」と思ったときに、多少の参考にしてもらえるとありがたいです。(でも個人的な感想なのでそのつもりで(笑)。)

次回は「準ルパン譚」と呼べる作品に触れたいと思います。

実は最近、長らく品切れ中だった偕成社の「アルセーヌ・ルパン全集別巻」に重版がかかり、僕もようやく手に入れることが出来ました。二度と読めないと思っていたので感激モノでしたよー。「別巻」はルパンの出てこないルブラン作品なんですが、これがなかなか面白かったです。どんでん返しも効いてて、いやーさすがルブラン。「奇岩城」や「813」を書いた作家だけあります。個人的には、ルパン作品の下位に位置するような作品より面白いのさえありました。

てなわけで、次回のvol.3の「準ルパン譚」に続きます!

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