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2006年11月

皇国の守護者 2巻読了

●皇国の守護者 2巻

Koukokunosyu02 あらら、こりゃ本格的に面白くなってきましたよ。やっぱ売れていると言う事はそれだけのわけがありますね。

漫画では珍しいレベルでリアリティーを持った、戦略・戦術描写が面白い。そういうのが好きな人はかなり楽しめると思う。

政略・戦略・戦術の面白さを押さえた作品は蒼天航路や銀英伝、司馬遼太郎作品などあるにはあり、僕も楽しんできた。が、それらの作品でスポットが当たる人間は将軍レベル以上であることが多い。(もしくはアムロのように末端の戦士が主人公か) これを小隊長・中隊長という中間管理職レベルでやったことが(僕の知ってる限り)珍しく、面白いと思った。

大きな国の方針、政略・大戦略レベルで状況を動かす力は主人公にはなく、圧倒的な状況の中に放り込まれる所は末端の兵士となんら変らない。上の無能や無理な命令、圧倒的状況に苦しみ、下の突き上げも食らう。また自らも下に理不尽な命令を強いらずを得ない。が、その中で主人公は小戦略・戦術レベルで才気を示し、自分の部下たちを導いていく。

戦略・戦術の面白さがただの「盤上のゲーム」になっておらず、そこに生きる兵士たちの生の感情や苦悩が吹き込まれていて、特に2巻後半あたりではもう、ちゃんと人間ドラマとして読めていけます。最初っからそれをやろうとしていたのはわかるんだけど、初期は情報量が多すぎで読みにくかった。が、このあたりまで来ると読み手であるこちらも状況をつかめてきて、純粋に展開とキャラクターの心情に没頭できるようになってきました。(そういうふうに読めるように、作者の方もどんどん上手くなってきてるんだと思います。)

特に2巻後半の展開までくると、読んでて「引き込まれる」という域まで達します。泥をかぶり、非情な、卑劣な(ここがミソ)命令を出す主人公と、その命令に反発する純粋な部下。敵帝国の侵略に蹂躙される一般村民。非情な命令や冷酷な命令を出す主人公と言うのは上記の作品でもよくありますが、卑劣な命令を出す主人公と言うのはなかなかない。(銀英伝のヴェスターラント事件くらいか?) しかも読んでるとそれが、この状況で「それしかない、たった一つの冴えたやり方」だと言う説得力がある。

読んでて「やめられない止まらない」エンジンがかかってきました。3巻4巻買ってきます。

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久々に読者として、自分のことは棚に上げて月旦

月旦とは人物評の事ですが、まあ硬い事言わずに。

最近読んだ漫画。と言っても研究半分。好きな漫画だけ読んでるわけにはいかないの。

●リアル 6巻 (井上雄彦先生)

Real06 ぎょへー。もう何もいうことはありませんです。凄い。泣ける。高橋話でこんなにぐっと来るとは、1巻の時には考えられなかった。高橋の学歴ランク志向の歪みを作った母親の価値観はリアリティーがあって非常にヤな感じがするのだが、ところどころに挿入される、女手一つで苦労してるシーンに胸がぎゅっとなる。今回の巻では「毎年冬はあのダウン…もう何年同じの着てるんだ」にやられた。

対して高橋父。母に比べてスッと共感できちゃうのはやっぱ自分が男視点から見てるからだろうか。高橋自身も本当に一緒の喜びを味わえるのは男親だと思っていて、それにずっと飢えていた。覚えたバスケの技を、ずっと父親に見てもらいたかった。でももう見せられない。それを父親の前でついに吐き出す場面は凄い。涙ナシには読めません。くそっ、俺は足元にも及ばない。

戸川。いくら「リアル」とは言っても、常に極限を目指すこの天才がいなければ、やはりここまで熱中しては読めないだろう。自分がぐっとくるのはどうしても、ちょっと常軌を逸した鼻っ柱の強いこういう奴。しかし、戸川は上のチームの誘いを断るのだろうか、どうなのか。井上先生がどう描きどういう答えを出すのか、興味がある。

●結界師 1~3巻 田辺イエロウ先生

Kekkaishi01 「まだいずれサンデーに挑戦する気があるなら読んどけ」と弟にせっつかれて、このたびアニメ化を機にようやく読む。確かにちゃんと面白い。結界のアイディアなんか、シンプルでわかりやすく、結界形成の手順も面白く、その上漫画として「使え」て、ギミックとして非常にいいです。コダマのような式神もかわいい。と、ここまで設定が洗練されてるにもかかわらず、設定話におぼれずちゃんとキャラドラマから話を作ってるので、漫画として読みやすく、面白い。この辺はさすがサンデー。だけど、うーん、個人的好みでいうと悪い意味でサンデーっぽいのが、どうにも「家の周りから出ようとしない」ってところなんだよなあ。目指すものも、今のところ「昨日よりちょっと成長した自分」くらいの、なんとも地に足がついた感じ。ああっ、いらいらするっ! ワンピースやハンター×ハンターのような、或いはデスノートのような、アクメツのような、広い世界に飛び出て「海賊王になる!!」とか、「新世界の神になる!!」とか「悪は全て殺しつくす!!」とか(笑)、そういう突き抜けたスカッとした野望がないものか。このどうにもならない窮屈間が、読んでて辛い。「悩んで成長」はいいんだけど、苦悩は苦悩でも極限を目指す苦悩であって欲しい。

…いや、これはこれで作品としては優れてて文句ないです。ドラマもちゃんとしてて非常にいい作品だと思います。ただ、サンデー読者はこういうのじゃないと共感できないとすると、自分が描くには辛い…、と、そういう気分ですね。今のサンデーの担当さんとは非常に気が合うと思ってるんですが、仮にそれで僕の満足いく連載取れたとしても、僕の感覚でここの読者の支持が果たして得られるかなーと、そんなことを考えて、読んでて辛くなります。やはりサンデーにこだわるのは足かせなのか?

とかなんとかぶつぶつ言ってたら、弟から「先に行くとどんどん燃える展開になるって!」と言われる。そっそうなのか? 確かに1巻あたりはまだそうでもないんだけど、2、3巻と進むにつれて面白くなっていってるからなあ。「うしおととら」だって大冒険が始まったのは3巻、4巻あたりからなんだから、まだ判断は早い、のかも。頑張って続きも読みます。面白い事は面白い。

あと、田辺先生の作品、昔ジャンプで1冊だけ「七つの海」という単行本を出されていた岩泉舞先生の作風を思い出させてくれました。これはこれで当時大好きで、単行本も持ってるんですよ。こういう作風が増えたと言うのは、少年誌も変ったものだと思いました。

●餓狼伝 1~18巻 板垣恵介先生

Garoudenn18_1 最強を目指す男どものぶつかり合い。

うひゃあ。こっちは突き抜けてます。スカッとします。

なんてったってバキ先生だもん。18冊一気に気持ちよく血をたぎらせながら読めました。

燃える! しかし話は進まない!!(笑)

●ああ播磨灘 1~25巻 さだやす圭先生

Harimanada25 こちらもJ機関にあった1、2巻を読んで止まらなくなって、次々購入。

相撲界の慣習、因習ことごとくコケにし、並み居る強豪力士を全てなぎたおす、ピカレスクロマン!読者の共感をも拒否するかのような悪漢ぶりは並じゃないです。「ぼけー」と言う決め台詞が素敵。相撲にまったく興味のない僕でも面白い。と言うか、まさに相撲という「設定」に関係なく、「主人公のキャラで読める」。こうでなくては。

●ケロロ軍曹 1巻 吉崎観音先生

Keroro01 絵は綺麗で漫画も上手いです。

大人気なんで気にはなってた。

でも個人的にはあずまんが大王ほどガツンと来なかった。

とりあえずどんなのか確認できたので満足。

●皇国の守護者 1巻 佐藤大輔先生 伊藤悠先生

Koukokunosyu01 ウルジャン連載らしいです。ジョジョ7部と同じ雑誌か。日露戦争あたりの日本をモチーフにしたらしいファンタジーです。明治の日本軍っぽい名前や世界観なのですが、竜やサーベルタイガーなども出てくる、あくまで架空の世界。敵もロシア「っぽい」軍隊です。絵や世界観が好みなので、前々から気になってました。しかし、一方で、好みとは言え参考にしてはいけないマイナーオーラもぷんぷん。とは言えたいていの本屋で見かけるので発行部数もそれなりにあると言うこと。読者に受け入れられてるわけで、興味を持って買った。

…案の定、読みにくいッ!!! 架空の世界でいきなり軍隊だから、情報量が多すぎてやはり入りにくい。なにをやりたいかネームのメカニズムはわかるんだけど、スッと気持ちが入っていかない。正直、こういうのに興味薄い人には薦められない。

しかし、頑張って一生懸命読むとやはり僕好みのオーラがちらほら…。特に小隊長レベル特有の苦悩や戦術レベルでの駆け引き、戦場の冷酷な現実など、「紡血」描く前に読んでおけばよかったと感銘を受ける。1話は読みにくかったけど、2話、3話と進むにつれて多少読みやすくなっていくし、その話でなにをやりたいかも毎回工夫されているので、読み終わった後には結構満足感がある。読むのに苦労するけど。それとなによりやはり絵の魅力か。この辺はほんとに羨ましい。

あと読みにくいと言っても一応ちゃんと、「設定ではなく主役のキャラクターを魅せるためのドラマ」と言う作りは押さえているので、致命的な読みにくさではないです。マニアックな設定ですが、きっちり漫画としての最低限のイロハはおさえてある。あたりまえだけどこの辺はさすが集英社、と言う事なんだろうなあ。

でも同じ路線?のマイナーメジャーとなったベルセルクの1巻あたりと比べると、やはり格段にハードルが高いと思う。

●リーンの翼 1、2巻 大森倖三先生

Rin01 買っちゃいましたよ。どんどんヒートアップするサコミズ王にやられて(笑)。…と言うか、なんですかこの絵のレベルは!!! 高すぎ凄すぎ。今更ながら一緒に載ってたのが恥ずかしいッ!!! この方、どんなキャリアが…? って、後ろのプロフィール見たら、これがデビュー以降コミックス2冊目って!!! うそでしょ。うそだと言って!!(笑) …アニメーターとしてのキャリアーとか積まれてるのかなあ。でも、描かれる漫画のコマ割りとか見ると、アニメーター出身特有の匂いは少なくて、ネイティブ漫画家の感性な感じするんだよなあ。はあ…。

しかし。やはり申し訳ないのですが、これだけの画力を持ってしても、1話は「皇国の~」以上に全然読みにくかった。キャラから話を作ると言う漫画の鉄則を押さえず、設定、状況から入っちゃってるんですよね…。でもこれは大森先生の責任ではないと思います。あとがきを見ると、「アニメのコンテ通りにやれ」という無茶な縛りがあったようですから(笑)。(惨いとしか言いようがないけど、富野監督の出した条件だからしょうがないか…)後の話になるにつれてキャラクターの目的・モチベーション・その障害を軸に話が動くにつれ (具体的にはサコミズ王(笑)) 漫画としてどんどん読みやすく、面白くなっていくわけですしね。

それでもやはり、紡血も一緒ですが、2巻3巻で表現するには詰め込みすぎでハードルが高いと思う。このくらいの分量の設定・ドラマだったら、もう少し、ゆっくりじっくりと積み上げて魅せて行かなければ、真に漫画としてベルセルクやワンピースに迫る面白い作品にはなれないと思うんだが…。

しかしこの条件の中でこれだけのモノを魅せられる大森先生の画力というか腕っ節は物凄いです。自分のと絵見比べるとホントに恥ずいです。だから見比べるの禁止。

★★★

書いてて気づいたのですが、自分の理想とする目標は、「皇国の守護者」や「リーンの翼」のような物語を、「餓狼伝」「リアル」くらいの引き込みで読ませることだと思った。「ベルセルク」がそれを実現してるわけだし、「ワンピース」「ハンター×ハンター」だってまったくの架空世界なわけだから、マニアックな設定でもやり方によっては不可能ではないはずなのだ。(「結界師」は読みやすいけど、僕とは向いてる方向が違う気がする)

たまには自己確認で文章にするのも必要だな、うん。

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紡がれし血統最終話掲載ガンダムエース、今日発売!!!

と言うわけで最終話です。

兵隊さん! 紡血、読んでってくれない? 

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久々にJ機関仕事

久々に余湖さん・田畑さんの作品のお手伝いに出動。

新作原稿のあまりのクオリティーにのけぞる。

紡血やりきって多少ついた自負も気持ちよく吹っ飛ぶ。オラワクワクするだ。どんどん吸収しちゃるぜ!

凄い人の仕事を身近で見れると言うのは、得がたい幸せだす。

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「紡血」最終話脱稿

したよ。

なにも間違いがなければちゃんと載るはず。

最後までお付き合いくださいー。

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今日の勝手に公式設定

エレンは宇宙世紀ドモホルンリンクルを使ってます。

だから気にするな!!!!

(…なにを?)

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アルセーヌ・ルパンシリーズ全容 vol.3

まいどー。たぶん定期的に見に来てくれる方には、あまり興味がないと思われる「アルセーヌ・ルパンシリーズ全容」第3弾です(笑)。いや、少しでも「三世」ではない、「アルセーヌ」の魅力に興味持っていただければと(笑)。あと、どこかの出版社がルパンシリーズを漫画化しようとする際には是非私を!と言う目論見もあります(笑)。

さて、前々回前回とルパンシリーズの根幹とも言える全21冊(813を正・続と分けた場合22冊)について、ざっと俯瞰してみました。今回は、準・ルパン譚とも言える何冊かと、原作者ルブランの他の著作について御紹介します。

2006年現在、もっとも完全なるルパン全集は偕成社の「アルセーヌ・ルパン全集」

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偕成社版・アルセーヌ・ルパン全集(全25巻・別巻全5巻・ハードカバー)

なのですが、上記の通り、全21冊にもかかわらず、本伝だけで25冊あります。これは「813」と「虎の牙」が正・続、あるいは上・下で2分冊になっているためですが、その他にも「ジェリコ公爵」「赤い数珠」の2冊が、ルパンが登場しないにもかかわらずシリーズに組み込まれているからです。また、このシリーズには「別巻」扱いとして、原作者ルブランのルパンが出てこない他の著作も5冊ほど(「女探偵ドロテ」「バルタザールのとっぴな生活」「3つの眼」「真夜中から7時まで」「赤い輪」)が収録されています。またこのシリーズには収録されていませんが、邦訳で読めるルブランの著作として、創元推理文庫でのみ出版されていた「ノー・マンズ・ランド」という著作もあります(現在は絶版)。

実は偕成社の別巻も長らく品切れ状態だったのですが、2006年、つい先日、めでたく重版がかかりました。おかげで僕も手に入れられた。これもルパン100周年のプチブームの影響ですね。めでたい。

上記の8冊のうち、「赤い数珠」「女探偵ドロテ」は、ルパン本人は登場しないものの、ルパンシリーズ本編と作品世界を共通とし、本編と密接に関わる「準ルパン物」と言える作品かと思います。特に「ドロテ」はルパンシリーズの背骨となる「カリオストロ4つの謎」のうちの一つを扱っているので、別巻扱いはおかしいですね。本編とまったく関わりのない「ジェリコ公爵」と交換するべきだと思います。

では、1冊1冊について簡単に俯瞰。

●ジェリコ公爵 ★★☆
ルパン譚とは関係ない、ルブランの別作品。が、偕成社のルパン全集では何故か本伝に組み込まれている。記憶喪失の謎の男「エロン・ロック」と、地中海を荒らす海賊王「ジェリコ公爵」との謎に満ちた繋がりの物語です。ルブラン作品お約束の「エロン・ロックと令嬢の恋」も絡めて、なかなか魅力的に仕上がってはいます。ただ、正直オチは読める(笑)。エロン・ロックの、またジェリコ公爵のキャラクターがルパンと酷似しているんで日本の訳者たちはシリーズに入れたがるのでしょうが、個人的にはそのせいで読んでて混乱した。まったく別作品として読んだ方が楽しめるかと思います。

●赤い数珠 ★★☆
準ルパン譚。ルパン本人は出てこないが、ルパン譚の「カリオストロの復讐」での重要な登場人物であるルースラン判事が主人公の物語。(こちらの方が発表が先なので、ルースラン判事を「カリオストロの復讐」にゲスト出演させた感じか。) 物語そのものはルパン譚とは違って落ち着いた大人のドメスティック・ミステリと言った趣。主人公のルースラン判事も、ルパンのようなスーパーヒーローとは違った、ポアロやメグレ警部のような系統の落ち着いた探偵である。ルブランの作品年表では後期の作品だし、クリスティーだのヴァン・ダインだのが現れた時期だと思うので影響を受けたのかな?

●女探偵ドロテ ★★★★
準ルパン譚。別名「綱渡りのドロテ」。これは結構面白い。孤児を引き連れてサーカスをしながら旅する少女が、ルパン並みの知恵と勇気を持ってフランスに伝わる大きな謎を解き、宝物にたどり着く物語。ビジュアル的に「ペリーヌ物語」のペリーヌを思い浮かべて読んでいた。たくましいながら上品な所と、圧倒的に賢いところがドロテとペリーヌはかなり重なるんですよね。旅する貧乏少女のイメージも一緒だし。

ルパンシリーズに密接に関わる、と言う部分は、このドロテが解く謎が、「カリオストロ伯爵夫人」に記されている「カリオストロ4つの謎」のうちの一つであると言う事。4つの謎とは「イン・ロボール・フォルチュナ」「ボヘミア諸王の敷石」「フランス諸王の富」「七本枝の燭台」で、後ろの3つはそれぞれ「三十棺桶島」「奇岩城」「カリオストロ伯爵夫人」でルパンが解くのだが、最初の一つ、「イン・ロボール・フォルチュナ」だけは、この物語でドロテが解く事になるのである。

ルパンはどうしてたのかなー、とか、実は影からドロテを見守ってたんじゃないかとか、想像が広がるところ。

●バルタザールのとっぴな生活 ★★★★
ルパン譚とは関係ない、ルブランの別作品。でもなかなか面白かった。ルパンとはまったく逆の、「人生には冒険などない」という哲学の持ち主の、少々滑稽さの漂う主人公バルタザール先生。が、自身の哲学とは裏腹に、彼にはこれでもかというほどとっぴな事態が降りかかる。その辺がもう滑稽さ満載でかなり笑わせてもらった。またバルタザールを何故か崇拝しきっていて何くれとなく身の回りの世話を焼いてくれる、孤児の少女コロカントが偉くカワイイ。現代のメイド萌えの方たちにも自信を持ってお勧めできる…気がする(笑)。こういう初々しい関係は、ドン・ファンたるルパンと言う主人公では描けなかっただろうな。

●3つの眼 ★★★★
ルパン譚とは関係ない、ルブランの別作品なんとSF!! なんと、とは言うものの、フランスはあのジュール・ベルヌの国だし、ホームズのコナン・ドイルだってSFを書いてるし、それほど不思議な事ではないのかも。おじの発見した「B光線」とは? おじを殺した犯人は? 「B光線」によって映し出される映像とはなんなのか? ネタバレになるのでこれ以上内容には触れづらいですが、ちゃんとSFしててなかなか面白かった。当然古典的だが、センス・オブ・ワンダーを押さえてる。ルパンの作者らしくミステリー仕立てであるが、ラストはなかなか壮大な気分にさせてくれる。むしろ今のSFにはこういう部分が足りない。あと、ヒロインはルブランお約束のツンデレ。

●真夜中から7時まで ★★★☆
ルパン譚とは関係ない、ルブランの別作品。上記作品は、どれも結構さわやかなジュブナイル的空気の漂う作品だが、これは一面「恋愛心理小説家」たるルブランの特徴が出た、なかなかエロい作品。って言っても直接の行為の描写はないんだけど。タイトルの「真夜中から7時まで」がそのものソレを現している。軽率さと男に対する無知から自分自身を「賞品」としてしまった令嬢と、それをたてに欲望を募らせる男たち、と言う構図。主人公もルパン以上のドン・ファンだし、誰に安心感を抱いてよいのやら(笑)。そしてヒロイン自身のよろめきっぷりが、また不安をかきたてられる。でもそこにリアルを感じちゃったりして。女性の心理描写とか、なかなか巧みなんだと思います。

●赤い輪 ★★★☆
ルパン譚とは関係ない、ルブランの別作品。(でも、昔のポプラ社の児童用ルパンシリーズには、組み込まれていた。) 手の甲に赤い輪が表れると、その者は犯罪を犯す…。その赤い輪が、ある高潔な心を持った令嬢の手に!! 遺伝的犯罪、というテーマが読んでて少々嫌な暗さを感じさせる作品。が、どんでん返しの仕掛けも工夫されているし、読後感はさわやか。特に母親との関係は泣かせます。

●ノー・マンズ・ランド ★★★☆
ルパン譚とは関係ない、ルブランの別作品。これだけ、偕成社のシリーズには別巻にも組み込まれていなくて、創元推理文庫でしか読めない作品になっています。(しかも現在では絶版。僕はアマゾンの中古で手に入れました。) 天変地異によってドーバー海峡に地峡が現れ、フランスとイギリスが地続きになった!主人公は未知の大地の探索に乗り出す。これも「SF」の範疇になるのかな。面白いことは面白いけど、主人公が冒険に乗り出す最初の動機が漠然としすぎていて前半ちょっと入り込みにくかった。中盤以降は面白かったです。

今回は、以上で締めさせていただきます。総じて、ルパン物の下位の作品より、これら別巻の作品の方が面白かったと言う印象です。これはさすがに後期になるとルパンではネタがなくなっていったと言う事と、「3つの眼」や「ノー・マンズ・ランド」のような世界観そのものを揺るがすような事はルパンではやれなかった事、また、読み手であるこちらも、つい「ルパンならこうしてくれる!」と言う過大な期待を抱いてしまう事があるかと思います。

いずれにせよ、ルブランは「ルパン」の名前に寄りかかった虚像のような作家ではなく、ルパンの名に頼らなくても物語作家として十分に面白い、偉大な作家と再確認しました。さすが「奇岩城」「813」の作者。そりゃあれだけの物書ける人が、ただの運がいいキャラ人気作家であるはずはないわなー。

次回は、ルパン物で邦訳されていない戯曲などの作品を簡単に御紹介します。また、ルパンを使った他の作家によるパスティーシュ(偽作)なども御紹介。特にボアロー=ナルスジャックによる「新ルパンシリーズ」全5冊は、ルブランの息子のクロード・ルブランのバックアップも得た、「正式な続編」と言ってもいいかと思うほどのクオリティーです。(ポプラ社の児童用怪盗ルパンシリーズ30巻版には、全部組み込まれていました。現在の20巻版からは排除)

では今回はこのへんでー。

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