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「岳」 いい作品と出会った

●岳 (がく) 石塚真一先生 小学館 ビッグコミックオリジナル

登山漫画です。山岳事故救助物。久しぶりに、全く知らない作家さまの作品とのいい出会いでした。ちょっとネットで話題になっていて気になったっていた矢先、本屋でキャンペーンのように大々的に平積みになっていたので勢いで3冊いっぺんに買ってしまいました。見ず買いだったのですが、正解。こないだ4巻も出てたのですぐ買いました。

この作品の力強い所は、「死を容赦なく描くところ」です。雪崩に包まれたら凍死するし、崖から落ちたら手足はあらぬ方向にひん曲がり、生きていた体はただの物体と化す。死体や大怪我の状態を、ありのまま描いている。それも扇情的に残忍に描くと言うよりも、余計な演出をせず、そのまま、たんたんと描くという感じ。この漫画を見てると、今生きている自分も、場合によっては次の瞬間「死体」となる可能性があることを思い出さされます。勿論この漫画の舞台は「山」で、日常とは遠く離れた世界です。とは言え登ってくる人たちの多くはプロの登山家ではなく、休日に趣味で山登りに来ているような人たち。死は、決して遠い世界の出来事ではなく、身近な出来事。それに今の世の中はあまりにも目隠しをしすぎ、目を逸らしているのではないか。たまに思う感覚を、この漫画を見て新たにしました。

主人公の救助員・三歩は、遭難した要救助者と顔をあわせたときも、死体と対面する時も、決して責めようとはせず、温かい笑顔で「頑張ったね」「また山においで」と言います。山での数多くの死を見ているにもかかわらず、自分も何度も死の境界線を潜り抜けた経験があるにもかかわらず、「みんな山に来ればいいのに」と、なんのてらいもなく言っちゃいます。常に穏やかな、暖かい微笑を絶やさないキャラクターなんですが、この辺に僕はこのキャラクターのキチガイじみた(←例によって誉め言葉)凄みを感じました。

何ヶ月か前のガンダムエースの「教えてください富野です」での宇宙飛行士の毛利さんと富野監督の対談で毛利さんがおっしゃっていましたが、宇宙開発という最先端のフロンティアへの挑戦でさえ、文明国である限り、世論は「人命最優先」と言う価値が絶対だと言います。事故があり、死者が出たら、世論のバッシングが起こりプロジェクト自体が頓挫しかねない、と。しかし毛利さんは、実際宇宙飛行士の生存率は75%(4人に1人は死ぬ)だし、例えば火星に行くプロジェクトがあれば、安全性が100%じゃなくとも手を上げる奴は自分を含めていくらでもいるだろう、とおっしゃってました。ちょっとギリギリの表現ながら、「(人命最優先というのは)先進国ではどこでもそうだが、それでもアメリカはまだ死を生業とする軍隊の延長上で考えられる。日本ではおそらく、(こういう事業は)難しいだろう。日本は人命に対して神経質になりすぎている部分がある」とも。(手元にテキストがないので、少々うろ覚えです。趣旨が間違っていたらごめんなさい)

「岳」を読んでると、聳え立つ崖のわずかな窪みにピッケルだのアイゼンだのを頼りに登るあまりの危うさに、冒険物好きの僕でも((((( ;゚Д゚)))))ガクガクブルブルなります。(絵が素朴でたんたんとしたリアリティーがあって怖いんですよ(笑)。) でも実際、これやってる人が何人もいるわけですよね。僕たちの知らない、ニュースにもならないところで。(実際作中の台詞で、「交通事故と同じでニュースにはほとんどならないけど、山の事故はほんとに多い」と言っています)

勿論、この人たちは命を捨てているわけじゃない。でも三歩など、数多くの山での死を体験してきているにもかかわらず山を降りる気もなく、「みんな山に来ればいいのに」と言えちゃう。そこには明らかに別の価値観がある。フロンティアスピリット大好きな僕でさえ、ちょっと鼻白むほどの。

「人命」と言うものの絶対的価値について、声高に反論するでもなく、淡々とした重みと確信を持って別の光を当てる漫画だと思いました。もしかしたら作者にその意図はなく、ただ事実と山への愛を描いたのかもしれないけど、自分は一番それを感じた。「死」は特別なものじゃなく、誰の身にも起こりうる(というより誰にも必ず訪れる)身近なものである。その事から目を逸らさず、世界ってそういうもんだという事を直視し認識した上で初めて見える当たり前の風景、そんな作品です。とにかく、一見暖かい作風だし実際読後の印象は暖かいけど、「逃げてない」作品だと思います。オススメ。

その他いくつか、最近見た作品。「デスノート」映画版前後編。結構良かった。特に脚本は上手くまとめたと思います。 「LOST」第2シーズン。うひょー!ドキドキしっぱなしでした。遅ればせながら、一気見。 「時をかける少女」噂にたがわず名作でした。 「機動戦士ガンダム U.C.ユニコーン」福井先生のガンダム。ちょっと復習の意味もあり改めて一気読みしました。こちらもうひょー!やっぱり面白いです。宇宙世紀の歴史の裏を貫くテーマ、福井先生得意の実在感のあるディテール描写に、メインストーリーは「落ちもの(少女が空から落ちてくる)」&「貴種流離譚(本当はだれだれの息子)」と言う王道。王道はやっぱりワクワクするから王道なわけで、燃えますよねー。

以上三作、どれも楽しめました。機会があったらそれぞれについて書くかもです。

関係ないですが、ジャパンアニメバッシングをしていたらしいフランスのロワイヤル大統領候補、落ちましたね。良かった良かった。元家庭担当相だそうで。ひぃ。この手のオバサンが権力持って文化に口出し始めたら、ろくな事にならないですわ。まあフランスに限らずこの手の御仁は日本にもいっぱいいますが。

ちなみに筒井康隆先生と言えば「時をかける少女」よりこの手の作品の方が本領↓

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コメント

森田樣: Hi~It's HongDa. I have Pre-ordered your art-work
機動戦士ガンダム クライマックスU.C. 紡がれし血統 (2).
Maybe I can get book about begin of the June(6月
上旬)

投稿: HongDa | 2007年5月 7日 (月) 10時26分

>I have Pre-ordered your art-work
>機動戦士ガンダム クライマックスU.C. 紡がれし血統 (2).

Thanks!!!!
I'm sorry to have kept you waiting~.

投稿: TAK@森田 | 2007年5月 8日 (火) 20時23分

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