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さらば絶版! オンデマンド・コミック

久々にガンダム関係以外の僕の作品のお知らせです。

Comc_asg00541_001 僕の初連載作品である「Clock Clock ~時の冒険者~」(小学館・全1巻)が、オンデマンド・コミックになりました。以下、購入ページへのリンクです。試し読みも出来るようです。

オンデマンド・コミック 「Clock Clock ~時の冒険者~」

試し読み

さてさて。オンデマンド・コミックとは? 皆さん御存知でしょうか。

簡単に言うと、漫画の原稿をデジタルデータとしてアーカイブ化し、読者の要望に応じて1冊からでも印刷・製本してお届けできるシステムの事です。このオンデマンド・コミックを統括していると思われる「コミックパーク」のサイトには、「さらば絶版!コミックスを1冊からでも作ってお届け!」とあります。以下、その「コミックパーク」へのリンク。

コミックパーク

現在の所、講談社、小学館、青林堂、秋田書店、少年画報社、リイド社、双葉社と提携されているようです。出版社をまたいだ活動なんですね。これは偉い! どうもこういうのは、縄張り問題や権利問題等という嫌な大人の事情で、いくら読者にとって良い方向でも進むものも進まなくなるという事例が腐るほどありますから…。そこを乗り越えているだけでも新鮮な驚きがあります。大手をきっちり押さえつつ、他出版社の御協力もお願いします、ということですから、今後のますますのコンテンツの充実が予想されます。

以下はそこからリンクが張ってあった小学館自身のオンデマンドコミックのページ。と言っても中身は一緒です。小学館のページには、「ここは“文化財としてのコミック”をデータとして完全保存し、 完全受注生産方式により販売していくシステムです。 絶版・品切れとは無縁。ひとりひとりの心に刻まれた“特別な一冊”を、みなさんのお手許にお届けします。」とあります。

小学館オンデマンドコミックス

と、ここまでは公式発表的なお知らせ。実は先日、著者へのサンプル本として、二冊ほど現物が送られてきました。なので、「実際の所どういった物なのか? 1冊づつの製本で本としてどの程度のクオリティーが可能なのか?」 など、ちょっとしたレポートを試みたいと思います。出版・著作界の未来を占う上でも、一読者としても、個人的にも興味津々。出版社側から「Clock Clock」の売り上げが今そう期待されているわけでもないはずなので(笑)、読者側に立った正直なレポートを心がけたいと思います。

●まず外観。こんな感じです。

Img_1053

表紙の絵、なんでこんなに小さくしたんだろう・・・? ここがイマイチ不満、というか、意図やメリットがわからんです。オリジナル版の価値を落とさないためにわざとこうしたのかな? と思わなくもありません。「アーカイブ」な雰囲気はかもし出されているので、そちらを狙ったのかも。あ、カラーのインク代を抑えてるのかな? ちなみに後々装丁まで注文者が自分で選べるシステムも考えているそうです。

●次に値段

値段は、「Clock Clock」の場合1冊945円。元のコミックスが580円なので、単純に比べると結構高いです。が、注文に応じて1冊づつ製本ということを考えると、むしろ安い? こんな値段で可能なんですね。まあ「Clock Clock」の場合、2007年6月現在まだ左のアマゾンのページから新品が定価の580円で買えますし、もっと言えば中古で1円(+送料・手数料)で手に入るみたいですので(涙)、せっかく出してもらっておいて身も蓋もないんですが、本作品に限っては、読者的には現在オンデマンドコミック版を買うメリットはほとんどないと思います。まあ「オンデマンドコミックってどんなものなのかな?」とこのシステムそのものに興味をもたれた方だったら価値がなくもないと思いますので、よかったらこの機会に「Clock Clock」を買ってみてください(笑)。

装丁・糊付け・裁断

かなりしっかりしてると思います。ビックリ、と言ってもいいかも。

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1冊づつ製本というイメージから、もっと粗悪なものを想像していました。が、そんな事は全くありませんでした。糊付けのしっかり具合は、見たところ某社のコミックスよりいいくらいかも。こんなのが1冊づつ作れちゃうのか…

紙質も真っ白で綺麗です。変色の度合いは時間が経ってみないとわかりませんが、取りあえず今のところ思いっきり真っ白。ある意味コピー用紙の真っ白さですね。普通のコミックスはもう若干黄色みがかっていると思います。

裁断も恐ろしく綺麗。上部、下部、横、ともに指で触ってもつるつるです。ハヤカワ文庫の上部みたいなガタガタの裁断を覚悟していた自分には結構衝撃でした。うーむ。

ただし、カバーはありません。これはしょうがないか。工程が1個増えそうだもんな。表紙の処理はこんな感じです。

Img_1050

カバーじゃないのに何故か折り返しがある。材質は単純な厚紙っぽい感じ。通常のコミックスの、カバー下の表紙の部分とほとんど変わらないかな。折り返しにあった著者コメントは無くなっていました。ついでに言いますと、裏表紙に描いたイラストも無くなっています。

●さて、中身・印刷

中は全部そのままコミックスと同じように掲載されています。ラストのおまけページもそのまま収録。

で、印刷なんですが、ここが意外にもネックでした。そうか、クオリティーの差はここに来るのか…。

正直、あまり良くありません。印象としては「コピー本」という感じ。特にトーンの印刷に顕著に現れています。これは意外でした。家にある個人で買えるレーザープリンタ(Canon LASER SHOT LBP-1510)ですら、トーンのドットひとつひとつまで綺麗に出るのに…。

Img_1051

わかるかな…。グラデーショントーンなんかに、特に顕著に現れています。漫画家の方は、原稿のコピーを取った感じを思い出していただければわかるかも。また、読者の方は古い作品の復刻版コミックスを読んだ時の感じを思い出していただければわかると思います。まあ、この企画そのものが復刻版コミックスと同じコンセプトなのですが、にしてもこれはそんなに古い作品ではないのでもっと綺麗に残しておく事も可能なのでは…と思ってしまった。(家に原稿あるし。) カドカワのガンダムコミックスの方は現在600dpiのデジタルデータで渡しておりまして、そのデジタルからの直接印刷で作ったコミックスがまたえっらい綺麗ですので、「デジタル保管」イコール「高クオリティー保存」というイメージを勝手に持ってしまってました。このオンデマンド版「Clock Clock」の場合、あちらで保存している原稿そのものに問題がある(文字通り絶版で、出版社側に版が残っていなくて現存するコミックスをスキャンして作った?)のか、それともこのオンデマンドコミックスの印刷方法の方の問題(1冊ごとの印刷ではこのクオリティーが限界?)なのか自分の知識ではよくわかりませんが、現在の所これはまだ綺麗な原稿の永久保存とは言えなさそうです。ただし前者が理由の場合、今後は出版社側も絶版の前に綺麗なデータをデジタルに残しておくでしょうし、後者の場合ならもっと単純に、低コストでの印刷技術が上がれば解決する問題かもしれないので、このシステムの可能性自体を貶める問題では無いですね。(追記・コミックパークサイト内の記述を読むと、どうやらやはり原稿データは現存のコミックスからのスキャンのようですね。ならしょうがないか。問い合わせてくれれば原稿残ってる先生も多いと思うんだけど、全ての作品にそれだけの手間とコストをかけたらこの事業自体が成り立たなくなるんでしょうねえ。とりあえず出来るだけたくさんのコンテンツを低コストでアーカイブ化することが第一なのでしょうし、この事業自体はすばらしいものですから、これはしょうがないなと思います。)

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

以上が、読者側としての素直な感想です。今のところ、状態のいい品が手に入るようなら元のコミックスを探した方がいいようです。(著作者側や出版社側からすると、中古買われるよりオンデマンド版を買っていただいた方が圧倒的に助かるのは知っておいて欲しいですが(笑)。) 

が、このシステムの価値は、古い古い、「もう手に入らないコミックス」が読みたい場合に真に発揮するものでしょう。この辺には読者としても個人的に大いに期待しております。「絶版よさらば!」というのは本当に素晴らしい事です。読者側からしても、探す手間を考えるとメリットはあると思いますしね。

また、選択の幅が広がるのも素晴らしい事です。中古だと品物そのものの劣化、不潔感は否めませんから。黄ばみがついていたり、ページがバラバラ取れたり。その点、新品でガッチリしていて清潔なオンデマンド版を選ぶという選択肢も当然あり得ると思います。印刷のクオリティーも、気にしなければ気にならないレベルとは言えると思いますしね。(「Clock Clock」に関しては、ですが。)

もう一つ、今後の展開、オンデマンドコミックスの可能性として面白そうな事も書いてありました。曰く、

●単行本化が難しいコミックの出版

●新人賞作品のコミックス出版

●未収録作品集の刊行

などなど。一冊からの製版が可能なシステムならでは、ですね。

これは大いに興味があります。

一読者としても好きな作家の未収録読切作品で是非単行本として持っておきたい作品は山ほどありますし、僕自身も結構読切作品描いて来てるので、今までだと雑誌とともに捨てられる運命だった作品がこういった形で保存でき、新たな読者にも読んで頂けるようになるのなら、本当に大歓迎です。後々読者一人一人が自分の欲しい読切をチョイスして自分だけの単行本として注文する事も出来そうで、なかなか夢は広がります。

てなわけで、このオンデマンド・コミック。

みなさんも、今後の出版界の動きにどうぞ注目してみてください。

P.S.

個人的には漫画もいいけど古い小説の絶版本なんかこんな形で復刻して欲しいな~。伝説の「保篠龍緒訳アルセーヌ・ルパン全集」やら黒岩涙香の作品やら読んでみたいんだが…

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コメント

アレ?提携会社のラインナップ見ると…機動戦士vs伝説巨人は手に入らないのかな…。

投稿: ごーもんま | 2007年6月17日 (日) 11時08分

カドカワはまだ提携して無いみたいですねえ。世の流れだからいずれすると思うけど、どうかな…? 集英社もしてないんですねえ。

長谷川先生の「機動戦士vs伝説巨人」は確か「Vガンダム外伝」に収録でして、一応まだアマゾンから買えるようですぜ。←のGUNDAM BASEのComixのところ(Web KADOKAWAにリンク)の在庫は切れてるけど…

投稿: TAK@森田 | 2007年6月17日 (日) 14時09分

うお、サンクスです!
そうか、一冊の中の一編でしたか。
早速注文してきましたw

投稿: ごーもんま | 2007年6月17日 (日) 14時25分

ガンダムコミックスはロングランが身上のようですから、かなーり古いコミックスでも漫画・アニメ専門店やでっかい書店には置いてあったりして、「うおっ」と思うことがあります(笑)。「Vガンダム外伝」も横浜のあおい書店に普通に置いてあった気が…。ちょこちょこと増刷してくれるようで、描き手からすると非常にありがたいです。

投稿: TAK@森田 | 2007年6月17日 (日) 14時43分

オンデマンド・・・確かに絶版が無くなるのは素晴らしいですね。
でも表紙、カバーでもないのに折込むのか。

投稿: ゆざいちょ | 2007年7月14日 (土) 01時26分

ゆざいちょさん>
書き込みありがとうございます。
オンデマンドには未来を感じますね。そしてアーカイブ化によって作品が「消えていく」と言う事がなくなるわけですから、描き手としてはかなり遣り甲斐が大きくなったと感じます。これからのますますの発展に期待です。

>でも表紙、カバーでもないのに折込むのか。

あれはなんなんでしょうね(笑)。別に困らないからいいけど(笑)。

関係ないですが、ゆざいちょさんのブログでのコミスタ使う時のお勧めタブレット、ファーボやインティオスをオススメしておりましたが、多少高くても画面に直接描ける液晶ペンタブが圧倒的にオススメですよ。確かに値段は張るんですが、絵描きが一度触ったらその値段の価値があることにすぐ気付くはず。現に自分の周りの漫画家仲間・アシスタント仲間は、みんな決して金持ちではないのに一度実感した後は全員迷いなく購入いたしました。たくさんの人が買えば値段も下がると思うので、「絵描きは液晶ペンタブ」が常識になる日が来る事を祈ってます。
(オススメは圧倒的にCintiQ1500Xなんだけど、今生産終了で手に入りにくいし、その上位機種はさすがに高すぎるんですよね。そしてその下位機種(DTIシリーズ)はちょっと微妙なんだよなー…。WACOMに再三再四、CintiQ1500Xの再生産の要望出しているんだけど…)

投稿: TAK@森田 | 2007年7月14日 (土) 11時10分

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