まいどー。たぶん定期的に見に来てくれる方には、あまり興味がないと思われる「アルセーヌ・ルパンシリーズ全容」第3弾です(笑)。いや、少しでも「三世」ではない、「アルセーヌ」の魅力に興味持っていただければと(笑)。あと、どこかの出版社がルパンシリーズを漫画化しようとする際には是非私を!と言う目論見もあります(笑)。
さて、前々回・前回とルパンシリーズの根幹とも言える全21冊(813を正・続と分けた場合22冊)について、ざっと俯瞰してみました。今回は、準・ルパン譚とも言える何冊かと、原作者ルブランの他の著作について御紹介します。
2006年現在、もっとも完全なるルパン全集は偕成社の「アルセーヌ・ルパン全集」


偕成社版・アルセーヌ・ルパン全集(全25巻・別巻全5巻・ハードカバー)
なのですが、上記の通り、全21冊にもかかわらず、本伝だけで25冊あります。これは「813」と「虎の牙」が正・続、あるいは上・下で2分冊になっているためですが、その他にも「ジェリコ公爵」「赤い数珠」の2冊が、ルパンが登場しないにもかかわらずシリーズに組み込まれているからです。また、このシリーズには「別巻」扱いとして、原作者ルブランのルパンが出てこない他の著作も5冊ほど(「女探偵ドロテ」「バルタザールのとっぴな生活」「3つの眼」「真夜中から7時まで」「赤い輪」)が収録されています。またこのシリーズには収録されていませんが、邦訳で読めるルブランの著作として、創元推理文庫でのみ出版されていた「ノー・マンズ・ランド」という著作もあります(現在は絶版)。
実は偕成社の別巻も長らく品切れ状態だったのですが、2006年、つい先日、めでたく重版がかかりました。おかげで僕も手に入れられた。これもルパン100周年のプチブームの影響ですね。めでたい。
上記の8冊のうち、「赤い数珠」と「女探偵ドロテ」は、ルパン本人は登場しないものの、ルパンシリーズ本編と作品世界を共通とし、本編と密接に関わる「準ルパン物」と言える作品かと思います。特に「ドロテ」はルパンシリーズの背骨となる「カリオストロ4つの謎」のうちの一つを扱っているので、別巻扱いはおかしいですね。本編とまったく関わりのない「ジェリコ公爵」と交換するべきだと思います。
では、1冊1冊について簡単に俯瞰。
●ジェリコ公爵 ★★☆
ルパン譚とは関係ない、ルブランの別作品。が、偕成社のルパン全集では何故か本伝に組み込まれている。記憶喪失の謎の男「エロン・ロック」と、地中海を荒らす海賊王「ジェリコ公爵」との謎に満ちた繋がりの物語です。ルブラン作品お約束の「エロン・ロックと令嬢の恋」も絡めて、なかなか魅力的に仕上がってはいます。ただ、正直オチは読める(笑)。エロン・ロックの、またジェリコ公爵のキャラクターがルパンと酷似しているんで日本の訳者たちはシリーズに入れたがるのでしょうが、個人的にはそのせいで読んでて混乱した。まったく別作品として読んだ方が楽しめるかと思います。
●赤い数珠 ★★☆
準ルパン譚。ルパン本人は出てこないが、ルパン譚の「カリオストロの復讐」での重要な登場人物であるルースラン判事が主人公の物語。(こちらの方が発表が先なので、ルースラン判事を「カリオストロの復讐」にゲスト出演させた感じか。) 物語そのものはルパン譚とは違って落ち着いた大人のドメスティック・ミステリと言った趣。主人公のルースラン判事も、ルパンのようなスーパーヒーローとは違った、ポアロやメグレ警部のような系統の落ち着いた探偵である。ルブランの作品年表では後期の作品だし、クリスティーだのヴァン・ダインだのが現れた時期だと思うので影響を受けたのかな?
●女探偵ドロテ ★★★★
準ルパン譚。別名「綱渡りのドロテ」。これは結構面白い。孤児を引き連れてサーカスをしながら旅する少女が、ルパン並みの知恵と勇気を持ってフランスに伝わる大きな謎を解き、宝物にたどり着く物語。ビジュアル的に「ペリーヌ物語」のペリーヌを思い浮かべて読んでいた。たくましいながら上品な所と、圧倒的に賢いところがドロテとペリーヌはかなり重なるんですよね。旅する貧乏少女のイメージも一緒だし。
ルパンシリーズに密接に関わる、と言う部分は、このドロテが解く謎が、「カリオストロ伯爵夫人」に記されている「カリオストロ4つの謎」のうちの一つであると言う事。4つの謎とは「イン・ロボール・フォルチュナ」「ボヘミア諸王の敷石」「フランス諸王の富」「七本枝の燭台」で、後ろの3つはそれぞれ「三十棺桶島」「奇岩城」「カリオストロ伯爵夫人」でルパンが解くのだが、最初の一つ、「イン・ロボール・フォルチュナ」だけは、この物語でドロテが解く事になるのである。
ルパンはどうしてたのかなー、とか、実は影からドロテを見守ってたんじゃないかとか、想像が広がるところ。
●バルタザールのとっぴな生活 ★★★★
ルパン譚とは関係ない、ルブランの別作品。でもなかなか面白かった。ルパンとはまったく逆の、「人生には冒険などない」という哲学の持ち主の、少々滑稽さの漂う主人公バルタザール先生。が、自身の哲学とは裏腹に、彼にはこれでもかというほどとっぴな事態が降りかかる。その辺がもう滑稽さ満載でかなり笑わせてもらった。またバルタザールを何故か崇拝しきっていて何くれとなく身の回りの世話を焼いてくれる、孤児の少女コロカントが偉くカワイイ。現代のメイド萌えの方たちにも自信を持ってお勧めできる…気がする(笑)。こういう初々しい関係は、ドン・ファンたるルパンと言う主人公では描けなかっただろうな。
●3つの眼 ★★★★
ルパン譚とは関係ない、ルブランの別作品。なんとSF!! なんと、とは言うものの、フランスはあのジュール・ベルヌの国だし、ホームズのコナン・ドイルだってSFを書いてるし、それほど不思議な事ではないのかも。おじの発見した「B光線」とは? おじを殺した犯人は? 「B光線」によって映し出される映像とはなんなのか? ネタバレになるのでこれ以上内容には触れづらいですが、ちゃんとSFしててなかなか面白かった。当然古典的だが、センス・オブ・ワンダーを押さえてる。ルパンの作者らしくミステリー仕立てであるが、ラストはなかなか壮大な気分にさせてくれる。むしろ今のSFにはこういう部分が足りない。あと、ヒロインはルブランお約束のツンデレ。
●真夜中から7時まで ★★★☆
ルパン譚とは関係ない、ルブランの別作品。上記作品は、どれも結構さわやかなジュブナイル的空気の漂う作品だが、これは一面「恋愛心理小説家」たるルブランの特徴が出た、なかなかエロい作品。って言っても直接の行為の描写はないんだけど。タイトルの「真夜中から7時まで」がそのものソレを現している。軽率さと男に対する無知から自分自身を「賞品」としてしまった令嬢と、それをたてに欲望を募らせる男たち、と言う構図。主人公もルパン以上のドン・ファンだし、誰に安心感を抱いてよいのやら(笑)。そしてヒロイン自身のよろめきっぷりが、また不安をかきたてられる。でもそこにリアルを感じちゃったりして。女性の心理描写とか、なかなか巧みなんだと思います。
●赤い輪 ★★★☆
ルパン譚とは関係ない、ルブランの別作品。(でも、昔のポプラ社の児童用ルパンシリーズには、組み込まれていた。) 手の甲に赤い輪が表れると、その者は犯罪を犯す…。その赤い輪が、ある高潔な心を持った令嬢の手に!! 遺伝的犯罪、というテーマが読んでて少々嫌な暗さを感じさせる作品。が、どんでん返しの仕掛けも工夫されているし、読後感はさわやか。特に母親との関係は泣かせます。
●ノー・マンズ・ランド ★★★☆
ルパン譚とは関係ない、ルブランの別作品。これだけ、偕成社のシリーズには別巻にも組み込まれていなくて、創元推理文庫でしか読めない作品になっています。(しかも現在では絶版。僕はアマゾンの中古で手に入れました。) 天変地異によってドーバー海峡に地峡が現れ、フランスとイギリスが地続きになった!主人公は未知の大地の探索に乗り出す。これも「SF」の範疇になるのかな。面白いことは面白いけど、主人公が冒険に乗り出す最初の動機が漠然としすぎていて前半ちょっと入り込みにくかった。中盤以降は面白かったです。
今回は、以上で締めさせていただきます。総じて、ルパン物の下位の作品より、これら別巻の作品の方が面白かったと言う印象です。これはさすがに後期になるとルパンではネタがなくなっていったと言う事と、「3つの眼」や「ノー・マンズ・ランド」のような世界観そのものを揺るがすような事はルパンではやれなかった事、また、読み手であるこちらも、つい「ルパンならこうしてくれる!」と言う過大な期待を抱いてしまう事があるかと思います。
いずれにせよ、ルブランは「ルパン」の名前に寄りかかった虚像のような作家ではなく、ルパンの名に頼らなくても物語作家として十分に面白い、偉大な作家と再確認しました。さすが「奇岩城」「813」の作者。そりゃあれだけの物書ける人が、ただの運がいいキャラ人気作家であるはずはないわなー。
次回は、ルパン物で邦訳されていない戯曲などの作品を簡単に御紹介します。また、ルパンを使った他の作家によるパスティーシュ(偽作)なども御紹介。特にボアロー=ナルスジャックによる「新ルパンシリーズ」全5冊は、ルブランの息子のクロード・ルブランのバックアップも得た、「正式な続編」と言ってもいいかと思うほどのクオリティーです。(ポプラ社の児童用怪盗ルパンシリーズ30巻版には、全部組み込まれていました。現在の20巻版からは排除)
では今回はこのへんでー。
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